「ふぐの刺身はなぜ薄いのか」
昔から多くの美食家たちが愛してやまなかったふぐですが、このふぐを食べる方法として、一番有名なのは刺身ですよね。
皿の柄が透けて見えるほどに薄く切り、盛り付けをされたふぐ刺し(てっさ)はどこか芸術にまで思えてしまうほどですよね。
しかし、なぜふぐの刺身はこんなに薄く盛られているのだろうと思ったことはありませんか。
他の魚の刺身を思い浮かべると、厚めに切ってある刺身が多いですよね。
初めてふぐの刺身を食べる人は、高級な食材だからケチって薄く切られているのかなと思う可能性もあるかもしれません。
そこで、今回は初めてふぐの刺身を食べる方が、恥をかく事の無いように、また周りの方に不信感を持ってしまわないように、ふぐの刺身が薄い理由をご紹介いたします。
■薄造り
ふぐの刺身の造り方を「薄造り」と言います。
この薄造りという方法は、日本料理の先人たちが編み出した技術なのか、古く日本にふぐを食べるために考案された方法なのかはわかりませんが、断じてケチな理由で薄いのではないのです。
というのも、魚を日ごろ捌いている方はお分かりいただけるかと思いますが、魚の内臓の部分には外側に、あばら骨があります。
この、あばら骨ですが人間にも存在しますよね。
あばら骨の主な役割としては、内臓を守る事なのです。
しかし、ふぐにはあばら骨がありません。
ではなぜ、ふぐにはあばら骨が無いのでしょうか。
ふぐは身の危険を感じると、膨らんで威嚇をします。
この威嚇の際に利用するのが海水なのですが、他の魚同様に内臓の周囲にあばら骨があると膨らむ範囲が制限されるどころか、膨らんだはずみで、あばら骨が折れてしまうかもしれません。
棘があるふぐや棘の無いふぐが居ますが、一概に膨らむことで自分を大きく見せる効果と、天敵の口の中で膨らむことにより食べられにくくする効果があります。
しかし、あばら骨が無いため、ただ膨らんだだけでは、簡単に食い破られてしまう可能性があります。
その為、ふぐは、膨れるために都合の良いあばら骨フリーの進化を遂げ、あばら骨の代わりに筋肉を硬くする事で、外敵から食べられにくい体を手に入れたのです。
この様に、内臓をも守れるような筋肉ですので、人間が噛んだだけではなかなか嚙み切る事が難しい事でしょう。
実際に包丁も普通の刺身包丁とは違い、まるで鉄板のように厚い「ふぐ引き」という専用の包丁を使うほどなのです。
この様に、身が固いからこそ食べやすくという心遣いの表れの様です。
■ふぐの身はとても淡白
ふぐの身はとても淡白な味です。
エゲツナイほどの毒を持ち、多くの人の命を奪ってきた魚とは思えませんが、その淡白な味わいが人気の理由なのかもしれません。
そんな淡白な味だからこそ、味わって食べる事に集中しなければ味が良くわかりません。
しかし味わって食べなければいけないのに、硬いふぐの身ですからあまりに厚いと、噛むことにだけ集中してしまい味なんて分かりませんよね。
その為食べやすくして、ふぐの味を楽しみやすくする為に薄く引いてあるのですね。
しかし、自分は少しくらい薄くても食べられるという方もいらっしゃるかもしれません。
それはそうかもしれませんが、食べるのは歯が丈夫な方だけではなく、入れ歯の方なんかもいらっしゃるかと思いますので、料理人の方は全ての方が食べやすいように造ります。
きっと一番美味しく食べる事ができる状態が、薄造りなのかもしれません、あまりにも厚いと顎が疲れてしまいます。
程よい歯ごたえが残るのがあの皿の柄が透ける薄さなのです。
そして、程よい歯ごたえのおかげでしっかりとふぐの味を堪能できるのが、皆さんが想像されている厚さのふぐ刺しなのです。
■ふぐの薄造りが作れるのは熟練の料理人のみ
ふぐの刺身の薄さについてお話してきましたが、ふぐの刺身を引くにはかなりの技術が要る様です
先ほどもお話ししましたが、ふぐの刺身はふぐ引き包丁という、鉄板のような包丁で切るのが一般的です。
この包丁は一般的な厚みが2.8㎜ほどありますので使うだけでも難しいのです。
そんな分厚い包丁であの薄いふぐ刺しを引くのですが、先ほどもお伝えしたように厚く切ってしまうと、噛むことに集中しなければいけないような硬さになります。
例えば、どんなに美味しい肉でも、硬いとあまり美味しく感じないのと同じです。
先ほどからふぐを引くというような言い方をしていますが、府部の刺身を作る場合はキルではなく引くとい言います。
これは、ふぐの身の奥側から手前に引いて切るためだと言われています。
言葉で言うと簡単に聞こえますが、同じように薄く引くコチで素人が薄造りを作ろうとしても分厚くなってしまうのと同じで、ふぐも薄く引くのには相当の修業が必要になるようです。
今回はふぐの刺身が薄く作られている理由をご紹介しました。
ふぐの刺身が薄いのは美味しく食べられるようにという心遣いの表れの様です。
日本人の気遣いという伝統が生んだ日本を伝統する料理と言っても過言ではないようです ね。
この薄造りを作るには熟練した職人技が使われているので、味を楽しむだけではなく、目でも楽しまれてみてはいかがでしょうか。