古くから日本人が愛してやまないふぐ。
古くは縄文時代から食べられていた歴史があり、愛されてきた歴史の裏で多くの人々の命を奪ってきたのもまたふぐです。
ふぐを食べる国は沢山ありますが、その中でも日本の除毒レベルは最高クラスで、専門的な知識を持ったフグ調理師がちょうりを行たフグであればフグの毒であるテトロドトキシンによる食中毒を起こしてしまう可能性はほぼ0%に近いレベルになっています。
ふぐが保有しているテトロドトキシンは神経毒であり、この毒にあたってしまうと呼吸困難やその他の症状を引き起こしてしまい最悪の場合窒息死を引き起こしてしまう危険な毒でもあります。
そんなふぐが保有しているテトロドトキシンを医療の現場で痛み止めや麻酔に使用できるのではないかと考えている人も少なくはないようです。
そこで今回は痛み止めや麻酔としてのふぐの毒についてご紹介します。
麻酔や痛み止めはもともと毒?
冒頭でお話したようにフグの毒を麻酔や痛み止めとして使えないかと言う声が医療の分野で上がっています。
そんな話を聞くと、毒を使って麻酔や痛みを止めるの?危険ではないの?と思ってしまう人が少なくはないですよね。
しかし基本的に医療に使われている麻酔薬という物は多くの場合人体にとっては毒になりえる物が使われています。
そのため用法容量が決められており、決まった量よりも多く使用すると昏睡状態から覚めず最悪の場合命を落としてしまうという可能性もあるほどです。
例えば麻酔薬として一番有名で第二次大戦などの過去の戦争でも痛み止めや麻酔薬として使用されていたモルヒネですが、このモルヒネもケシを原料に作られるもので処方箋医薬品としてではなく、麻薬や毒薬として規制をされている物です。
このように医療の現場で使用すると薬となる物であっても一般的には毒として扱われているという物は少なくありません。
特に神経系を麻痺させる毒の場合にはより良い麻酔が無いかと結球されることが多く、その毒が与える副作用等の対策や毒の性質がはっきりと解明できた場合には麻酔として用いられる様です。
テトロドトキシンの麻酔薬
テトロドトキシンを麻酔薬に使用できないかと言う研究は最近始まった物ではなく、結構古くからあったようです。
なぜテトロドトキシンに目を付けたかと言うと、テトロドトキシンはナトリウムチャネルに反応し、神経の伝達口を塞ぎ伝達機能を停止させる事で全身の筋肉や神経を麻痺させる毒のためです。
この麻痺させる効果は比較的少量のテトロドトキシンで可能であり、かなり強力な麻痺作用により痛みはおろか意識さえ完全に失ってしまうほどの強力な麻痺効果を持っています。
なぜふぐの毒が麻酔として使用されないのか?
そんなに強力で少量で効果を発揮するふぐの毒であるテトロドトキシンが今まで医療の現場で使用されなかったのでしょうか。
その原因として挙げられる一番の理由は、呼吸器官までも停止させてしまうという恐ろしい副作用にあります。
テトロドトキシンと言えば死因はほぼほぼ窒息死ですから副作用?と思った人も多いですよね。
確かにテトロドトキシンの通常の効果ですが薬として用いる場合には、得たい効果と望まない効果と言う物があり、もともとの効果であっても望まない効果を副作用と位置付けてあります。
基本的には、副作用を危険な物として考えなければ、医療においてテトロドトキシンを増すとして利用する事は可能なのです。
しかしこの呼吸をも止めてしまうという危険な副作用の為確実に手術で使用した場合に「死」のリスクが高くなってしまうのです。
「死」の危険性が高くなってしまう物を薬として処方する事ができるはずはありません。
特に使用した場合に呼吸が止まってしまうというリスクがありますから使用する際には、人工呼吸器の装着や24時間体制での監視が必要になるなど、医療現場への負担が大きくなってしまう点も、実用化に至っていない理由の一つだといえるでしょう。
テトロドトキシンについてはまだまだ研究中?
長い間テトロドトキシンについて研究が行われていますが、テトロドトキシンの性質のすべてが解明されているわけではありません。
実はテトロドトキシンはとても複雑な構造になっており、どのように解毒されるのか分解されるのかも分かっていません。
特に熱によって分解されない事もわかっており、今現在ではテトロドトキシンの解毒剤さえないのが現状です。
もしもテトロドトキシンに解毒剤が発見されれば、麻酔として使用後に解毒剤の投与を行う事でリスクをグッと減らす事ができますので、実用に向けて前進するのかもしれません。
しかし現在はテトロドトキシンの麻痺の効果や麻酔として使用した際に細胞を破壊しない毒物であることなどがわかっている程度で、とても実用化できるレベルではない様です。
もしもテトロドトキシンが医療用に実用化されれば、日本のふぐ食で排出される多くのテトロドトキシンが有効に利用される事になる為、日本のふぐ食文化がより世界中の注目を集めるきっかけになるかもしれませんね。