皆さんはふぐの事をどれくらい知っていますか。
猛毒のテトロドトキシンを体内に有していて、素人調理では命をも危険にさらしてしまう危険な魚だという事くらいでしょうか。
もしくは、日本料理としての最高級の食材であるという事でしょうか。
確かに、ふぐを語る上では上記の2つはとても大切な事です。
しかし、この2つだけではふぐについて詳しく知っているとは言えませんし、ふぐの話題を話す必要がある場合には、話が膨らみませんよね。
そこで、今回はふぐの生態のお話をして行こうと思うのですが、皆さんは回帰本能と言う言葉を聞いた事はありませんか。
回帰本能と言うのは簡単に言うと、自分が生まれ育った場所へ帰ろうとする本能の事です。
実はこの回帰本能がふぐにはあると言うのですが、今回はこのふぐの回帰本能についてご紹介します。
■回帰本能とは
回帰本能または、産卵回帰というのはサケなどの魚に見られるような、生まれ育った場所に帰ってくると言う行動の事です。
サケに関しての回帰本能はとても有名な話なのですが、サケなどの回帰本能は回遊っという行動の中に回帰性が本能として刷り込まれており、必ず生まれた川へかえってくるのです。
この回帰性という物は人間にも備わっている本能らしく、人間は母胎回帰性という物があり、生まれてくる前の羊水の中と同じ状況に帰りたくなる本能があるようです。
この様に、魚などに限った事ではなく、どこかへ帰りたいと思う本能の事を回帰本能と呼ぶのです。
実はこの回帰本能は今までふぐには無い物だと言われていたのですが、最近の研究によって、ふぐの回帰本能が発見されたようなのです。
■回帰本能が見られたのはとらふぐ
回帰本能が確認できたのは現段階では、とらふぐだけの様です。
と言うのも、とらふぐの回帰本能が確認されているのにはやはり、ふぐの王様であるとらふぐに関しての研究が広く行われているからなのです。
その中でも、個体を調べる為に目印を付けるなどの事をするようなのですが、そのしるしをつけた稚魚のふぐが、オホーツクや故郷で見つかっている為、ふぐには回帰本能があると言う事の裏付けになっているようです。
この回帰本能の為に、山口県は下関で放流されたとらふぐが、オホーツク海で見つかるなどの事があるのです。
■とらふぐの回帰行動はどのような物?
とらふぐには回帰本能があるとご紹介しましたが、そんなとらふぐの回帰本能はどのようなものなのでしょうか。
そもそも、とらふぐの産卵期は3月から6月にかけて行われるのですが、この産卵期である3月から6月と言うのは基本的に潮流が速くなっている時期の為、とらふぐは比較的浅い水深の場所に産卵をすると言われています。
特に、生まれたばかりの稚魚が身を隠す事が出来たり、餌場となりそうな砂利や小石が多い水深が10㎝から50㎝ほどの場所に好んで産卵をするようです。
そんなとらふぐの日本近海での産卵場所は、不知火海や有明海、博多湾や関門海峡一帯、尾道周辺海域や備讃瀬戸、伊勢湾安乗沖や若狭湾、能登島や秋田・天王町沿岸などが有名です。
しかし、この海域での産卵が多いはずなのにとらふぐは基本的に、日本列島周辺であれば、ほぼ全域に分布していますので、その他の海域などで産卵をしているのでは?と思う方も居らっしゃいますよね。
しかし、そのような事は無く、ふぐは成長すると2年から3年は東シナ海などの外海と言われる流れが速く水深が深い場所で回遊をするため分布が広くなっているのです。
と言うのも、とらふぐの成魚を浅瀬の湾口などで見かけるのはあまりありませんよね。
これが、ふぐが回遊魚だという証拠なのです。
ふぐの回遊範囲は前述したようにかなりの物で、どのようにして生まれた場所が分かるのかはまだはっきりとはわかっていませんが、産卵をするために生まれた場所へ帰ってくるのは回遊のルート内に回帰という物が埋め込まれているのかもしれませんね。
また、ふぐの産卵は、桜前線とともに北上していきます。
これは、暖かい海流によるものですので、桜前線に合わせて北上をして行くと、ふぐの産卵現場を見つける事ができるかもしれませんね。
■ふぐの身が硬いのは回遊魚だから
ふぐの身は全て筋肉だと言ったも過言ではないのですが、長距離の回遊によって強く強靭に鍛えられるため、歯ごたえが良く噛めば噛むほど味の出るふぐの身になるのです。
しかし、あまりにも硬いために、刺身として食べるためには薄造りと言う方法で作られています。
その刺身は、皿の絵柄が透けるほどの薄さにも関わらず、コリコリとした食感でとても驚きを隠せないと良いった様な衝撃を受ける事でしょう。
もしも、とらふぐが回遊魚ではなく回帰本能が無い魚であれば、あのコリコリした食感は楽しめなかった事でしょう。
とらふぐが日本の伝統的な高級料理になったのには、ふぐの生態による身の食感などの理由が大きかったのかもしれませんね。