現代の医療ですらその解毒方が分かっていないふぐの毒であるテトロドトキシンですが、人間へのテトロドトキシンの致死量はというと、およそ2gだとされています。
このテトロドトキシンを使って勿論人を殺害してしまう事も、毒の量が少ない事からも可能だと言えます。
だからと言ってやってはだめですが、過去にこのテトロドトキシンを使った暗殺があったのではないかという物がありましたので今回はご紹介したいと思います。
くれぐれも言っておきますがテトロドトキシンを使用してどのように人を殺害するかの記事ではありませんので、ご注意ください。
■テトロドトキシンによって殺害されたと言われている歴史上の人物とは?
ふぐの毒であるテトロドトキシンによって殺害されたとされている、歴史上の人物とは誰だと思いますか。
以外に皆さん聞いたことが無い名前かもしれませんね。
その歴史上の人物とは「井伊直平」という人物です。
実は過去に大河ドラマで描かれていましたので、意外と知っているという方もいらっしゃるかもしれませんが、井伊直平とはどのような人物だったのでしょうか。
■井伊直平とはどんな人物?
ふぐの毒で殺害されてしまうくらいだから、よっぽどの悪役だと思っている方も少なくはないかしれませんので、ここで少しだけ井伊直平についてお話しします。
井伊直平は戦国時代の武将で今川義元の家臣でした。
遠江国(現在の静岡県)の16代当主で井伊直虎や井伊直正の曾祖父の当たる人物で、一説には徳川家康の正室築山殿の外祖父に当たるとされています。
その場合を考えると、松平信康の曾祖父にもなるという人物なのです。
直平の子供で直満の孫にあたる井伊直正はのちの徳川四天王になるなど、かなり歴史に関わってきている家柄であると言えるでしょう。
この直平は今川氏真が織田信長への弔い合戦を仕掛けた際に、一緒に出陣をしています。
しかし、白須加の陣において直平の軍勢から出火しそれが原因で白須加のあちこちで集落が焼けてしまうのです。
過去に直平の息子であった井伊直親の殺害を命じたのが今川氏真であったために、その件で恨み白須加を焼き軍の竿以降日に被害を与えたのではないかと疑われ、その汚名を晴らすために、武田方に従ったとされる天野左衛門尉を氏真の命を受けて出陣する事になります。
出陣の準備中に、家老の飯尾連竜の室であるお田鶴の方に毒茶を進められ、有玉旗屋の宿において落馬し死んでしまうのです。
■なぜ井伊直平が飲んだ毒茶にテトロドトキシンが使用されたと言われているのか?
歴史的な記載にはふぐの記載もテトロドトキシンの記載もないのになぜこの毒茶の成分が、テトロドトキシンだと言われているのかというと、直平の死亡した有玉旗屋や浜松市の南有玉町に当たるのですが、ここから毒茶を飲んだと言われる場所現在の東照宮までは徒歩で約5.7㎞あり、約1時間で到着できます。
現代人と違い、昔の人はもう少し歩くのが早かったはずですから、40分くらいではないでしょうか。
この事から考えると服毒をして約1時間でなくなっていますし、もしも落馬をしなければもう少し長く生きていたかもしれませんが1~2時間ほどでなくなる予定だったのでしょう。
そう考えると、お田鶴の方は直平を毒殺したかったが、あまり早く毒が効いてしまうと家臣にばれてしまう恐れがあった為に、効果が表れるまでに時間のかかる毒が必要だったと考えられます。
戦国の時代にそのような、都合のいい毒があったとは考えにくく、身近なところからの毒の入手となると、やはり海が近いことからも、ふぐが有力になります。
まだこの頃は、ふぐが禁止をされていた時代ではない為、ふぐを食べてしばらくして亡くなったという噂もあったはずですから、ふぐの毒なら服毒後しばらくしてから殺害できると考えても不思議ではありません。
ちなみにテトロドトキシンの中毒症状には、四肢の麻痺や運動機能の麻痺という物がありますので、馬上においてそのような症状が突然現れてしまうと、必然的に落馬してしまうわけです。
また中毒症状が30分から40分で始まる事からも、ふぐの毒の可能性が持たれているのです。
ふぐの毒は現代でも、解毒剤は無く稀に死者も出ているほどですので、戦国の世の中ではほぼほぼ助からない毒だったのではないでしょうか。
どのようにして毒を抽出したのかはわかりませんが、2㎎というとくさふぐの肝2g相当ですので、乾燥してすりつぶした物を少し濃いめのお茶に混ぜてもわからないかもしれませんね。
また毒茶の成分がふぐの毒だったという話の始まりは、谷光洋氏の「井の国物語」だともされているので興味がある方は読まれてみてはいかがでしょうか。
このようにふぐの毒によって殺人ができたのではと言われるくらいふぐの毒というのは、本来強力な物なのです。
現代でも、毒が排出されるまで人工心肺などを使っての治療と胃の洗浄しかできない状態ですので、自分で調理をして食べるような危険な事は絶対にしない様にしましょう。